高田隆の長男 光一のほんの少しの欠点
高田隆の長男、光一は、もともと根っからの悪人ではなかった。
むしろ、子どもの頃の光一は、どこにでもいる普通の少年だった。
ただ、一つだけ人より強いところがあった。(悪い点だったが)
「何とかなる」
それが光一の口癖だった。
学校で宿題を忘れても、
「明日やればいい」
友達との約束に遅れても、
「ちょっと寝坊しただけ」
アルバイトを休んでも、
「店長にはあとで謝ればいい」
そして、何か失敗をすると、
「今回は運が悪かった」
そう言って笑った。
周囲から見れば、いい加減な人間だった。
しかし、本人にとっては、それほど深刻なことではなかった。
失敗しても、誰かが何とかしてくれる。
困ったときには、親がいる。
金がなくなれば、誰かに借りればいい。
そんな甘さが、長い年月をかけて、光一の中に染みついていた。
そして、光一の生活は崩れ始めた
二十代の半ばを過ぎた頃から、光一の生活は少しずつ崩れ始めた。
仕事を辞めた。
理由は「会社が自分に合わなかった」。
次の仕事を探すと言いながら、なかなか動かなかった。
昼近くまで寝て、午後から街へ出る。
夜になると友人と酒を飲む。
そんな生活が続いた。
父の隆が、
「いつまでそんな生活をするつもりだ」
と叱ると、
「ちゃんと考えてるよ」
と答える。
だが、実際には何も考えていなかった。
そして、ある日、光一は父に嘘をついた。
「仕事が決まった」
本当は決まっていなかった。
なぜそんな嘘をついたのか、自分でもよく分からなかった。
ただ、父に責められるのが嫌だった。
その程度の嘘だった。
しかし、その小さな嘘を隠すために、光一は次の嘘をつかなければならなくなった。
「来週から勤務だから」
さらに、
「給料が入ったら家にも少し入れる」
と続けた。
嘘は、最初は自分を守るためのものだった。
けれど、嘘を重ねるうちに、光一は現実そのものから逃げるようになっていった。
そして借金地獄へのループに落ちていった
やがて、金が足りなくなった。
最初は友人から数万円を借りた。
「給料が入ったら返す」
そう言った。
しかし、返せなかった。
別の友人から借りた。
その金で前の借金を返した。
さらに足りなくなり、また別のところから借りた。
気がつけば、光一は「金を稼ぐ」ことより、「借りた金をどう返すか」を考える時間のほうが多くなっていた。
家族には言えなかった。
父に知られれば、また叱られる。
母に知られれば、泣かれる。
だから、何もなかったような顔をして家に帰った。
食卓では普通に話をした。
「今日はどうだった?」
と聞かれれば、
「まあ、普通」
と答えた。
しかし、ポケットの中では、督促の電話が鳴っていた。
光一は携帯電話の画面を伏せた。
その瞬間から、家族との間に見えない壁ができ始めた。
