妹の孝子と、甥の光一、姪の遥、そして義理の妹光子が再度集まった
数日後、四人が久子のマンションに集まった。
テーブルの上には、久子の遺品と相続関係の書類が置かれている。
誰も口を開かない。
時計の音だけが響いていた。
やがて光子が言った。
「私は……久子さんが、何か書き残していると思うの」
遥が顔を上げた。
「遺言ということ?」
「そう」
光一が口を挟んだ。
「じゃあ、探せばいいじゃないか」
その言葉に、遥は警戒した。
「どこを探すんですか?」
光一は一瞬、黙った。
その一瞬を、遥は見逃さなかった。
「……兄さん、何か知ってるの?」
「何も知らないよ」
「本当に?」
空気が張り詰めた。
すると光子が突然言った。
「私には、久子さんが何か残してくれていると思う」
孝子が静かに尋ねた。
「どうしてそう思うの?」
光子は答えた。
「久子さんが、そう言ったから」
「何と言ったの?」
光子は言葉に詰まった。
「……私に、いろいろ託したいようなことを」
「具体的には?」
沈黙。
相続争いの主導権を取ろうとする光一の企みが始まる
そのときだった。
光一が笑った。
「結局、みんな自分に都合のいいことを考えてるだけじゃないか」
遥が睨んだ。
「兄さんこそ、何か隠してるんじゃないの?」
光一の顔から笑みが消えた。
「俺を疑ってるのか?」
「疑われるようなことをしているからです」
一瞬、二人の視線がぶつかった。
孝子が慌てて止めようとした。
「もうやめて。姉さんが一番嫌がることよ」
しかし、そのとき。
テーブルの上に置かれていた久子の古い手帳が、床に落ちた。
パラパラとページが開く。
その久子の手帳から思いがけない言葉が表れた
そして、あるページで止まった。
そこには、久子の文字でこう書かれていた。 ――「遺言は、あの人に渡してある。」
四人の顔から、血の気が引いた。
「……あの人?」 遥が呟いた。 光子は息を呑んだ。
「誰……?」 孝子は、手帳を震える手で拾い上げた。
その瞬間だった。 光一だけが、何かを知っているような顔をしていた。
遥はそれを見た。
「兄さん……?」
光一は答えなかった。
ただ、ポケットの中のスマートフォンを強く握りしめた。
実はその夜、光一のもとには一通のメッセージが届いていた。
差出人は、久子の知人を名乗る人物だった。
――「久子さんの遺言について、お話があります。」
光一は、そのメッセージを誰にも見せていなかった。
なぜなら、その人物が持っているという「遺言」の内容次第では―― 五千万円の遺産の行方そのものが、大きく変わる可能性があったからだ。
そして光一の頭の中に、また一つの考えが浮かんだ。
――この遺言を利用できる。
そう思った瞬間、彼は自分でも気づかないほど邪悪な笑みを浮かべていた。
しかし、その笑みを見ていた人物がいた。
孝子だった。
孝子は何も言わなかった。
ただ心の中で、静かに決めた。
――絶対に、光一の思い通りにはさせない。
久子が残したものを守る。
姉の人生を守る。
そして何より―― 姉が最後に望んだ「みんなが争わない相続」を、なんとか実現してみせる。
四人の思惑は、まだ交わったばかりだった。
そして本当の相続争いは、ここから始まろうとしていた。
