光一の策略で、光子の疑念が深まり、暴走に向かう
数日後。
光子が孝子に電話をかけた。
「孝子さん、久子さんの遺言について、何か知っているでしょう?」
「知らないわ」
「本当に?」
「どうしてそんなことを聞くの?」
「私は、久子さんから約束をしてもらっていたことがあるの」
孝子は黙った。
「どんな約束?」
「それは言えない」
「だったら、私にも何も聞かないで」
「でも……」
光子は声を強くした。
「久子さんが私に何か残そうとしていた可能性はあるでしょう?」
「それは、姉さんに聞かなければ分からないでしょう」
「だから、その遺言を探しているんじゃない」
「光子さん……」
孝子はため息をついた。
「姉さんはもういないのよ」
「だからこそ、最後の意思を大切にしなきゃいけないでしょう」
電話が切れた。
孝子は受話器を置いた。
義理の姉妹の間に、これまでにはなかった距離が生まれている。
そのことが、孝子には悲しかった。
遥が見つけたメモ:「誰かにお金を預けるつもりはない」
一方、遥は久子の部屋を整理していた。
机の引き出し。
銀行関係の書類。
マンションの契約書。
保険関係の書類。
一つ一つ確認していく。
そのとき、一枚の小さなメモが目に入った。
久子の字だった。
短い文章だった。
「お金を誰かに預けるつもりはない」
遥は眉を寄せた。
「……何のことだろう」
そのとき、ふと光一の言葉を思い出した。
――伯母さんは、誰かに財産の管理を頼んでいたようだ。
遥はメモをもう一度見た。
「おかしい……」
久子の書いた言葉と、光一の話が食い違っている。
しかも、光一はなぜそんなことを知っているのか。
遥の胸に、小さな疑念が生まれた。
――兄さんは、伯母さんと何を話していたのだろう。
悪人光一の誰にも言えない焦り:借金地獄からの脱出を果たしたい
光一には、家族の誰にも言えない事情があった。
以前から抱えていた金銭問題。
借金。
返済を迫る相手。
そして、少しずつ増えていった生活費。
五千万円の遺産は、単なる「欲しい金」ではなかった。
それがあれば、今の生活を立て直せる。
逆に、それを失えば――。
光一は追い詰められていた。
だからこそ、久子の遺言に執着した。
ある夜、光一は一人で考えていた。
「どうして伯母さんは、こんなものを残したんだ……」
封筒。
遺言。
別紙。
頭の中で言葉がつながっていく。
もし、自分に不利な内容が書かれていたら。
もし、遺産を受け取れなくなるようなことが書かれていたら。
――どうしても、先に見つけなければならない。
光一は、そう考え始めていた。
