光一が、家から消えた夜…そして、そこから転落が
ある夜、光一は父と激しく口論した。
「お前はいつまで逃げているんだ」
隆の言葉に、光一は黙った。
「仕事も続かない。金もない。嘘ばかりついて……」
「うるさいよ」
光一が初めて父に言い返した。
「俺の人生なんだから、俺に決めさせてくれよ」
隆は何も言わなかった。
その沈黙が、かえって光一には耐えられなかった。
「もういい」
光一はそう言って部屋に戻った。
その夜、家族が寝静まった頃、光一は小さなバッグに着替えを詰めた。
財布の中には、わずかな現金しかなかった。
それでも、家を出た。
玄関のドアを閉めたとき、光一は一度だけ振り返った。
「しばらく帰らなければ、みんな俺のことを忘れるだろう」
そう思った。
だが、それは逃げるための出発だった。
その第一歩、ちょっとした家出のはずだった
最初の数日は、自由になったような気がした。
誰にも怒られない。
何をしても、自分の勝手だ。
安いホテルを転々とし、ネットカフェで夜を過ごした。
携帯電話には家族から何度も着信があった。
光一は出なかった。
メッセージも読まなかった。
そのうち、着信そのものが怖くなった。
「帰ってこい」
「どこにいるんだ」
「心配している」
そんな言葉を見るたびに、胸の奥がざわついた。
だから、携帯電話の電源を切った。
そして、連絡を絶った。
家族からすれば、光一は突然「行方不明」になった。
警察への相談も考えられた。
だが、光一自身は、ただ姿を消しただけだった。
少なくとも、そのときまでは。
家庭から離れ、やがて孤独の中でもがき始める
しかし、自由は長く続かなかった。
仕事がない。
金がない。
頼れる友人も少ない。
そして、家庭にも帰れない。
光一は次第に、人の目を避けるようになった。
昼間から酒を飲むことも増えた。
ネットカフェの隅で、スマートフォンを眺めながら、一日を過ごす。
世の中から取り残されたような感覚が、少しずつ強くなっていった。
その頃、光一は一人の男と知り合った。
仮に、その男を黒田とする。
黒田は光一より少し年上で、どこで働いているのかよく分からない男だった。
いつも金を持っていた。
服も高そうだった。
そして、光一の事情を聞いても、何も責めなかった。
「お前、真面目すぎるんだよ」
黒田は笑った。
「世の中、そんなにきれいじゃないぞ」
その言葉が、光一には妙に心地よかった。
