高田家の遺産協議 始まる――久子の遺産をめぐる四人の思惑1、光子と、光一

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久子のマンションに集まった四人、それぞれの思惑

久子が亡くなってから、まだそれほど日は経っていなかった。

そのマンションの中には、亡くなる前とほとんど変わらない空気が残っていた。

テーブルの上には、久子が最後まで使っていた眼鏡が置かれている。

書棚には、几帳面に並べられた本。

そして、机の引き出しには、途中まで書かれた手帳が残されていた。

けれど、その家の空気は、もう以前とは違っていた。

そこに集まっている誰もが、同じことを考えていた。

――久子は、遺言を残しているのだろうか。

遺産は、預金二千万円。

そしてマンションが、およそ三千万円。

合わせて五千万円ほどになる。

決して小さな金額ではない。

だからこそ、久子が最後に何を考え、誰に何を残そうとしたのか。

それは、残された者たちにとって、単なる法律上の問題ではなくなっていた。

それぞれの人生そのものを左右する問題になっていた。

光子 その強い思い――「久子さんは、私に何かを残したはず」

その中で、最も強い確信を持っていたのが光子だった。

光子は、久子の亡くなった弟の妻だった。

法律上、自分に当然の相続権があるわけではない。

そのことは、光子自身も分かっていた。

それでも、光子には引っかかる記憶があった。

久子が生前、何度か自分に言った言葉。

「光子さんには、いろいろ助けてもらったから……」

それだけではない。

久子が病院に入る少し前、一度だけ、こんなことも言っていた。

「もし私に何かあったら、机の中を見ておいてね」

あの言葉は何だったのか。

光子は、それを忘れることができなかった。

――もしかしたら、私に宛てた遺言がある。

そう思い始めると、疑念は次第に確信へと変わっていった。

「久子さんは、私に何かを託したんだわ」

誰もいない部屋で、光子はつぶやいた。

しかし、それを口に出すことにはためらいがあった。

もし何もなかったら。

もし自分の思い違いだったら。

そして何より、他の人間に先に見つけられてしまったら。

光子の胸の中に、焦りが生まれた。

その夜、光子は久子のマンションを訪れた。

孝子も遥もいない。

静まり返った部屋の中で、光子は机の前に立った。

引き出しを一つずつ開けていく。

通帳。

古い領収書。

手紙。

写真。

しかし、遺言らしきものは見つからない。

最後の引き出しを開けたときだった。

光子の手が止まった。

そこには、一冊の小さなノートがあった。

表紙には何も書かれていない。

光子は息を殺して、それを手に取った。

「……これ?」

ページを開く。

しかし、そこに書かれていたのは、遺産のことではなかった。

久子の日常の記録だった。

光子はページをめくった。

そして、ある一文を見つけた。

――「私がいなくなった後、みんなが争わないでほしい。」

光子はしばらく、その文字を見つめていた。

だが、その次の瞬間には、別の考えが頭をよぎった。

「……でも、これだけじゃないはず」

久子が本当に大切なことを、こんなノートに書くだろうか。

正式な遺言は、別の場所にあるのではないか。

光子の疑念は、消えるどころか、さらに深くなっていった。

悪党・光一の誰とも違う大胆な発想

光一――「五千万円しかないから争うんだ」

一方、光一は違っていた。

彼は、もう昔の光一ではなかった。

かつては、ただいい加減な男だった。

仕事も長続きせず、人との約束も守らない。

しかし、やがてその「いい加減さ」は、もっと危険な方向へ変わっていった。

人を利用することを覚えた。

嘘をつくことに罪悪感を持たなくなった。

そして今、彼の頭の中にあるのは、ただ一つだった。

――金だ。

「五千万円か……」

光一は、紙に数字を書いた。

預金二千万円。

マンション三千万円。

「五千万円を分けるから、みんな揉めるんだ」

しばらく考えた。

そして、口元に薄い笑みを浮かべた。

「だったら、五千万円じゃなくせばいい」

彼の頭の中で、危険な計画が動き始めた。

マンションの価値を利用できないか。

久子が残した財産を、少しでも自分の側へ動かせないか。

誰かに借金をさせる。

誰かを説得する。

書類を利用する。

あるいは、相続人同士を対立させて、その隙に自分が利益を得る。

具体的な方法を考え始めると、光一の目は異様に輝いた。

「みんな、自分が正しいと思ってる」

光一は笑った。

「だから簡単なんだよ」

相手の弱みを探せばいい。

孝子には、久子への思いがある。

遥には、家族の財産を守ろうとする責任感がある。

光子には、「久子から何かを託された」という思い込みがある。

――ならば、それぞれの気持ちを少しずつ刺激すればいい。

光一は、誰にも見せないメモ帳に、四人の名前を書いた。

そして、その横に、それぞれの「弱点」を書き込んだ。

プロフィール
ツネジイ
ツネジイ

はじめまして、70代男性です。

急に小説を書き始めました。
パリ旅行関連の情報を書いていましたが、間違った情報を発信してはいけないと強いプレッシャーを感じていました。
それで、自由に書ける小説を始めてみました。。
小説は、本当は別ブログにすべきですが、どこまでできるか分からないので、このブログ内に描きます。
良かったらご覧ください。

仕事を終えたのを機に、憧れだった夫婦のパリ旅行を実現しました。
出発まで1年かけて図書館で徹底的に調べ、実際に現地を2週間強体験。
その中で感じたのは、事前準備をすればパリは大人世代でも安心して楽しめるということでした。

このブログでは、
・初パリの夫婦旅・一人旅でも安心できる情報
・70代目線での注意点や移動のコツ
・実体験に基づくリアルなアドバイス
をお伝えしています。
これからパリを訪れる方の、不安を減らし、旅をより充実させるお手伝いができれば嬉しいです。

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