翌朝から、孝子夫妻の生活は一変した。
電話が鳴る。
また鳴る。
葬儀社との打ち合わせ、警察との確認、火葬場の日程、菩提寺への連絡。
姉の名前を何度も口にし、そのたびに「亡くなった」という事実を突きつけられる。
葬儀社の担当者は慣れた様子で、次々と確認を進めていった。
「お写真はこちらでよろしいでしょうか」
差し出された姉の写真を見て、孝子の手が止まった。
そこには、まだ生きている姉がいた。
少し笑っていた。
「……これでお願いします」
声が震えた。
夫は隣で黙っていた。
自分が何かを言えば、孝子の涙が堰を切ってしまうような気がした。
通夜の日。
親族は誰も来なかった。孤独な姉の一生を表すようだった。
しかし、孝子の心は、まだ姉の死に追いついていなかった。
読経の声を聞きながら、
――姉さん、本当に一人で死んだんだ。
そのことばかり考えていた。
あの家で。
誰にも看取られず。
助けを呼ぶこともできず。
最後に何を思ったのだろう。
その問いには、誰にも答えられない。
葬儀が終わり、火葬場へ向かう。
棺が炉の中へ消えていくのを見送ったとき、孝子は初めて、「もう姉には会えない」と実感した。
骨上げを終えると、夫が静かに言った。
「帰ろうか」
孝子は頷いた。