ここで、高田家の人々について今後の物語の展開のため、ざっくりとした紹介をしよう。
高田家は、どこにでもあるような、ごく普通のサラリーマン家庭だった。
父の浩二と母の文子。二人とも特別に裕福でもなければ、貧しいわけでもない。浩二は会社勤めを黙々と続け、文子は家を守りながら、三人の子どもを育てた。
家族五人が揃って食卓を囲む日も多かった。大きな事件が起こるような家庭ではなかったが、それぞれの性格は幼いころからはっきりと違っていた。
三人きょうだいの長女が、久子だった。
久子は、子どものころから真面目で、何事にも手を抜かなかった。勉強も仕事も人一倍努力し、やがて社会に出ると、持ち前の能力を生かして仕事に打ち込むようになった。
いわゆるキャリアウーマンだった。
仕事では責任のある立場を任され、周囲からも一目置かれていた。忙しい毎日を送りながらも、自分のことをあまり語る人ではなかった。
いろいろと経過はあったが、結局結婚することもなかった。
本人が結婚を望まなかったのか、それとも仕事を優先するうちに機会を逃したのか。それを家族に詳しく話すこともなかった。
気がつけば、久子は一人で生きることが当たり前になっていた。
長男の隆は、姉の久子とはずいぶん違っていた。
のんびりした性格で、細かいことにはあまりこだわらない。少々ルーズなところがあり、周囲から注意されても、どこか飄々としている。
「まあ、なんとかなるさ」
そんな調子で人生を渡ってきた。
妻の光子は、そんな隆とは正反対だった。
気が強く、言うべきことははっきり言う。家庭のことについても主導権を握るのは、いつも光子だった。
夫婦の間では、誰が見ても光子のほうが強い。
高田家では、いつの間にか「隆のところは、光子さんが仕切っている」というのが共通認識になっていた。
いわゆる、かかあ天下の夫婦である。
そんな二人の間に生まれた長男が光一だった。
光一は父親の隆に似ていた。
ただ、隆の「のんびりしている」という性格を、さらに悪い方向へ伸ばしたようなところがあった。
時間や約束に大雑把で、物事を最後まできちんとやり遂げることが苦手だった。
仕事も一つのところに長く落ち着かず、転職を繰り返している。
家族はそんな光一を心配していたが、本人には本人なりの考えがあるのか、それとも深く考えていないだけなのか、誰にもよく分からなかった。
一方、妹の遥は光一とは対照的だった。
大人しく、目立つことを好まない。
しかし、芯はしっかりしていた。
人の話をよく聞き、自分がやるべきことはきちんとやる。派手さはないが、着実に人生を歩いている女性だった。
福祉関係の仕事に就き、人のために働くことを苦にしない。
家族の中で、遥は「しっかり者」として見られていた。
そんな中で、隆はガンを患い60代前半で亡くなってしまった。
隆が亡くなっても、家族の中ではしっかり者の光子が仕切っていてあまり影響がないようであった。